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Ch4.放浪者の滞在

城門の外では、風が止む気配を見せなかった。


ジェフリーはざらついた石壁にもたれ、右肩を煉瓦の継ぎ目に預けていた。姿勢だけを見れば気怠げだったが、実際には少しも気を緩めていない。琥珀色の瞳は、城門の分厚い木扉をじっと見つめていた。長いあいだ燃え続けている炭火のような目だった。


表面は静まり返っていても、その奥の熱は少しも冷めていない。右手はいつの間にか胸元の隠し袋を押さえていた。布越しにも、薄いペーパーナイフの輪郭がはっきり分かる。


そして、その隣には一つの小石が静かに収まっている。

もう、あまりにも長くここにいた。朝霧が草原からすっかり消えるほど。城門を掃除していた下働きの少年が、訝しげな視線を三度もこちらへ向けるほど。ついには馬まで蹄で地面を軽く掻き、不満そうな様子を見せ始めるほど。


本当なら、とっくに行くべきだった。

その考えなら、もう十回以上繰り返している。流浪者の掟を知らないわけではない。


――留まらない。――関わらない。――振り返らない。


七年間、大陸のあちこちを歩いてきた。一つの街の外で、これほど長く待ったことなど一度もない。けれど今日。


骨の髄まで染みついていたはずのその掟に、「Anna」という名前が、静かに一筋の裂け目を作っていた。

あのペーパーナイフを彼へ残したとき。彼女の指は震えていなかった。その小さな事実が、ジェフリーの胸の奥――とうに硬い皮で覆われたと思っていた場所へ、棘のように刺さっている。彼女は彼を庇った。自分よりずっと小さく。背中には傷があり。その前の晩には、刃を握ったまま崩れた塔の縁に立っていた少女が。


侍衛たちへ向き直ったときだけは、ジェフリーが今まで見たこともないほど静かだった。胸が痛むほどの静けさ。そして、理由もなく少し怖くなるほどの静けさだった。ジェフリーは顔を上げ、王宮を囲む高い石壁を見た。壁は空を細長い隙間へ切り取っている。彼女が今どこにいるのか、分からない。国王と向き合っているのかも分からない。


その国王がどんな顔をしているのかも。


けれど、七年間の放浪の中で彼を幾度も救い、一度として無駄足を踏ませなかった直感が告げていた。

彼女は今、自分が飛び込んで守ることを必要としてはいない。少なくとも。今はまだ。ジェフリーはもう一度、胸元の隠し袋へ目を落とした。小石は昨夜、自分で拾ったもの。


ペーパーナイフは彼女が残したもの。一つは自分が残した印。もう一つは、彼女が手渡したもの。違う場所から来た二つが、なぜか今は同じ袋の中で肩を寄せている。そのとき、ふいに夢を思い出した。


七年間、ずっと彼につきまとってきた夢。夢の中の人物は、一度も正面を見せたことがない。ぼやけた輪郭だけ。自分が行ったこともない場所に立ち、背を向けている。風がその髪を揺らしている。七年間、追った。七年間、目を覚ました。そして目を開けるたび、掌に残るのは空虚だけだった。けれど昨夜。塔の上で彼女の隣にしゃがみ込み、夜明け前の淡い光を横顔に受けながら、彼はその目の中に何かを見た。


助けを求める目ではない。恐怖でもない。

もっと深く。もっと古い疲労。長いあいだ暗闇の中で一人きりで耐えてきた人が、初めてほんの少しだけ、壁へ身体を預けることを許したような。心臓が一度、脈打った。強くはない。けれど、やけにはっきりと。馬がまた蹄で地面を叩いた。


ようやくジェフリーは少し動き、手綱を指へ一周巻きつけた。


それでも馬には乗らない。城壁の根元まで歩き。


その場へゆっくり腰を下ろした。背中を石壁へ預け。長い脚を伸ばす。そして、城壁によって細く切り取られた空を見上げた。

待つ。太陽は城壁の上を越え。長かった影を短くし。やがてまた長くしていった。ジェフリーは石壁へ背を預け、目を閉じていた。眠っているわけではない。本当に眠っているときなら、呼吸はもっと穏やかになり、肩も完全に落ちる。


今の肩には、まだ張りがあった。きちんと弦を張った弓のように。いくら外から気を抜いているように見えても、その弦だけは決して緩まない。ただ、体力を温存しているだけだった。


草原の端で獲物を待つ猫科の獣のように。


すべての覚醒を、気怠げな外見の下へ隠して。城門の隙間から風が抜けてくる。街の料理の匂い。馬糞の匂い。そして、言葉ではうまく説明できない、湿った苔のような匂い。その匂いが、崩れた塔を思い出させた。眉間がほんの少し動く。

すぐに戻る。午後の日差しが石畳を白く照らしていた。街へ入っていく商人たちが何人か彼の脇を通り過ぎ、土地の訛りでひそひそ話しながら何度かこちらを見る。


剣は帯びているが、誰かを襲う様子もないと分かると、そのまま散っていった。


ジェフリーは目を開けない。

足音だけで人数と距離を判断する。頭の中へ一度記す。そして消す。関係のない人間。関係のないこと。指が無意識に、胸元の隠し袋の縁を撫でた。そこにあるのは、あの刃の輪郭。薄い。細い。柄の一部が擦れている。長いあいだ手に握られてきた跡。


昨夜、塔の上で袋へしまったときには、細かく見たわけではなかった。なのに今。その擦れた場所をはっきり覚えている自分に気づく。


不自然なくらい。


彼女は、どれくらい長くあれを握っていたのだろう。何度の夜を、掌の中で過ごしたのだろう。

どれほど握れば、柄へ自分の温度が染み込むほどになるのか。ジェフリーはその考えを、そこで切った。本当に目を閉じかけた、そのときだった。城門脇の小さな通用口が、突然ほんの少し開いた。正門ではない。


人が一人、身体を横にすれば通れる程度の狭い扉。普段そこを通るのは、手紙を運ぶ小僧か、買い出しへ出る下働きくらいだ。ジェフリーの睫毛がわずかに動いた。顔は上げない。


ただ、伏せた瞼の下から、その細い隙間へ視線だけを少し向ける。

出てきたのは、十一、二歳ほどの少年だった。王宮の雑役が着る粗末な布服。

腕には、街の薬屋へ届けるらしい処方箋の束を抱えている。ひどく急いでいて、敷居へ足を引っかけそうになった。ジェフリーは動かなかった。少年が姿勢を立て直し。顔を上げる。そして、半分だけ開かれたような琥珀色の瞳とぶつかった。少年が一瞬固まるのを、ジェフリーは見た。


そのあいだに、頭の中で何かが一周する。彼はわざと気配を消していたわけではない。けれど、そういうことができる男だった。壁にもたれて座っているだけで。目立たない木片のように、その場へ溶け込める。一度見ても、次の瞬間には忘れられる。


彼自身が、見つけてほしいと思わない限り。ジェフリーは軽く顎を上げ。指先で石壁を二度、小さく叩いた。ちょうど少年に聞こえるくらいの音。「坊主」低い声だった。威圧感はない。長い年月、水に削られ、角が取れた丸石のような声。「今日、宮殿で何かあったか?」少年は一秒ほど迷った。ジェフリーは立たない。近づきもしない。


ただ腰元から銀貨を一枚取り出し、指の関節のあいだで一度転がした。

午後の日差しを受け、銀貨が白く光る。


脅しでもない。強引な買収というほどでもない。ただ静かに。『取引ならできる』そう示す仕草。ジェフリーは待った。琥珀色の瞳の奥。ずっと燻っていた炭火が、また少しだけ上へ燃えた。少年は銀貨を見るなり目を輝かせた。少し迷ったあと、彼のそばまで寄り、その手から銀貨を奪い取る。息を吹きかけ。


前歯で噛んで。本物かどうか確かめる。「今日は特に何もないよ。でも昨日の夜は、ジーロング王子が正式に求婚したんだ。宴もすごく盛大でさ。今朝なんて、使用人がみんな腰が痛いだの背中が痛いだの言ってた」


ジェフリーは銀貨を奪われても止めなかった。目尻がほんの少し緩む。心の中で、この少年へ『抜け目がない』という評価をつけた。


怯えて言うことを聞く類の賢さではない。少しばかり胆力まである。少年が銀貨へ息を吹きかけ、歯を立てて質を確かめる一連の動作はあまりに滑らかだった。


どう見ても初めてではない。「求婚した?」ジェフリーはその言葉を舌の上で一度転がした。声に起伏はない。まるで、自分には何の関係もないことを確認しているような響きだった。


ただ。袖口のそばで、指が一度だけ軽く弾けた。弦を爪弾いたあと。すぐに止めるような。ほんの一度。とても速く。


それきり静まる。顔は少年へ向けない。目だけを僅かに細め、城門の重い木扉の隙間を見る。濃い茶色の睫毛が、頬へ薄い影を落としていた。「ジーロング王子」


もう一度、その名前を低く口にする。古い地図の上に書かれた地名を読むような、淡々とした声。「国王は、受けたのか?」一番重要な言葉を、問いの最後に置いた。急かさない。焦りも見せない。けれど。


城門から戻った視線が、音もなく少年へ落ちたとき。


そこには先ほどまでなかった、ごく薄く、それでも明らかに鋭い集中があった。胸の奥で、直感が小さく動く。求婚すること。受け入れられること。この二つのあいだにある距離は。


ときには、扉の隙間ほどしかない。けれど、場合によっては。一人の人間の運命すべてほど遠い。塔を下りていったAnnaの背中を思い出す。真っ直ぐな背中。


傷など存在しないように見えるほど。でも。彼は知っている。


あの薄い布の下に何があったのかを。胸のどこかを軽く握られたような感覚。強くはない。けれど、はっきりしている。ジェフリーは再び石壁へ背を預けた。姿勢はまた、気怠げな旅人へ戻る。ただ右手の親指だけが。


隠し袋の外側を一度ゆっくり撫で。止まった。「もう一つ教えてくれ」声にも、また少し気楽さを戻す。「もう一枚やる」腰の反対側から、二枚目の銀貨を何気なく滑らせる。中指と薬指のあいだへ挟み。日差しの中で静かに光らせる。まだ渡さない。


ただ、そこへ置いて待つ。「今朝、宮殿で国王の書斎へ行った人間はいるか?」


少年はまた欲深そうに手を伸ばし、二枚目の銀貨を取った。「今朝は誰も国王を訪ねてない。でも昨夜、宴が始まる前に一人の公主が国王のところへ行ったよ。ジーロング王子がすごく気に入ってる、あの公主」少年は声を少し潜める。


「死んでも嫌だって抵抗してたらしいけど、昨日は国王の書斎から出たあと、その求婚の宴にも出たんだ。ただ……」そこで口を閉ざした。まだ続きがある。でも。今の報酬では足りない。そんな顔だった。


ジェフリーは、小さな手が二枚目の銀貨を器用にしまうのを見た。

何も言わない。


ただ、少年の口元に浮かんだ『続きがある』という表情を見て、心の中で小さく笑う。この小僧。視線を下げ。


あの不自然な間を、頭の中で一度なぞる。宴の前。公主は書斎へ入った。そこから出た。そして宴へ行った。ジェフリーの顎が僅かに引き締まる。ほんの少し。よほど注意していなければ、咬筋が一瞬変わったことなど気づかない。


何も言わない。

沈黙は深い水のようだった。表面には波紋一つない。

その底で何が動いているのか、誰にも分からない。彼女は行った。何を差し出して。何を得たのか。分からない。あの国王が何を聞き。何を認め。あるいは何を認めなかったのか。それも分からない。けれど彼女は行った。自分の背中へあの傷を残した男の前へ立った。


思い浮かべるだけで胃の奥がざらつくジーロングのいる宴へも行った。


自分の足で。そこへ入った。ジェフリーは顔を上げ、もう一度少年を見る。琥珀色の瞳は静かだった。何かを底へ押さえ込んだ湖のように。ただ、口元だけがほんの僅かに上がった。笑みとは呼べない。


むしろ。天秤の反対側へ何かを置くような仕草。「賢いな」低く平らな声。本気なのか冗談なのか分からない程度の感心。物分かりのいい若馬でも褒めるような口調。二秒。沈黙する。右手の人差し指と中指が、膝を二度軽く叩いた。急がない。


ひどく気の長い人間が、自分のために時間を測っているように。それから。懐から取り出したのは一枚ではなかった。二枚。すぐには渡さない。掌を開く。日差しの中。二枚の銀貨が、小さな二つの星のように静かに光る。


「最後まで話せ」公平な取引の続きを告げるような平坦な声。「全部話したら、二枚ともやる」


話しているあいだも。目は少年の顔から離れない。琥珀色の虹彩には、静かで。けれど、押さえきれない集中がある。一本の釘が。音もなく。すでに木へ半分ほど入り込んでいるような。待つ。彼は待つことが得意だった。


七年待ってきた人間だ。

あと少し待つくらい。何でもない。ただ。


二枚の銀貨の縁を、親指がゆっくり一周した。ほんの少しだけ。それが彼を裏切っていた。少年は一度黙り込み、二枚の銀貨をじっと見つめた。


「別に大したことじゃないけど……その公主、宴のあいだずっとジーロング王子から離れてたんだ」


声をさらに潜める。「なのにジーロング王子のほうは、獲物でも見るみたいに、一晩中ずっと公主を目で追ってた」それから少し得意そうに続けた。「公主が出した条件は、母后の命日が過ぎてからじゃないと迎えに来ちゃだめ、ってことらしいよ。少なくとも三か月先だって」少年は首を傾げる。


「こんな条件、初めて聞いた。公主って、普通はみんな早く政略結婚したがるんじゃないの?」

ジェフリーは動かなかった。


三秒。まるまる三秒。掌には、まだ二枚の銀貨がある。日差しを受け。白い光が二点。顔には何も浮かばない。安堵も。眉を寄せることも。簡単に読み取れる感情は一つも。けれど。『三か月』その言葉が落ちた瞬間。琥珀色の瞳の奥底で。何かがごく僅かに。一瞬だけ。熱を持った。炭火の縁へ細い針が触れたように。燃え上がりはしない。でも。もう冷たくはない。三か月。彼女は。自分のために三か月を勝ち取った。


塔の上で見た横顔を思い出す。

疲労より深く。恐怖より古い表情。


刃を握っていても、震えなかった指。あのとき。彼女は死ぬことしか考えていないのだと思っていた。でも、違った。

彼女はただ、生きようとしているだけではない。考えている。道を探している。背中に傷を負い。ほとんど一晩中眠れなかった少女が。あの書斎へ入り。自分自身のやり方で。三か月という隙間を、運命の中へ打ち込んだ。胸の奥。何かが重く沈み。そして。ゆっくり浮かんでくる。


それが何なのかは。まだ分からない。ジェフリーは二枚の銀貨を差し出した。動きは安定している。

指先にも、不必要な迷いはない。「持っていけ」声は小さかった。さっきより。さらに小さい。

会話の中へ、独り言が混ざったような声。少年は銀貨を受け取ると、さらに何か話して気に入られようとした。


けれどジェフリーはもう視線を外していた。城壁に切り取られた細い空を、再び見上げている。少年は察した。処方箋の束を抱えたまま走り去る。足音が石畳の上を遠ざかり。やがて消えた。


ジェフリーは、ざらついた城壁の根元へ静かに座っていた。長い脚を伸ばし。右手は胸元の隠し袋を覆っている。布越しに。ペーパーナイフの輪郭を感じる。あの薄い。小さな重み。


ジーロングは、一晩中彼女を見ていた。


その考えは、赤く焼けた鉄の塊のようだった。静かに。何の音もなく。胸のどこかへ押し当てられる。見えない焼け跡を作っている。でも。確かに痛い。

歯を食いしばりはしない。拳も握らない。外から見れば。相変わらず。城壁へもたれ、日向ぼっこをしている気怠げな流浪者。ただ。今ここで誰かが近づいてよく見れば。顎の線が。あまりにも真っ直ぐ張っていることに気づいただろう。


本当に気を抜いている人間の顔ではない。

三か月。ジェフリーは目を閉じた。その数字を頭の中で一度裏返し。


また元へ戻す。流浪者に、留まる理由などない。彼が一つの場所へ最も長く留まったのは十八日。それすら。脚の傷が治らなかったからだ。七年間。大陸の半分以上を歩いた。どこへも根を張らなかった。張ってしまえば。抜くときに土までついてくる。それを知っているから。


でも今。彼は城門の外へ座っている。脚に傷はない。道は開いている。馬も元気だ。


それなのに。ゆっくり息を吐く。目を開く。

行かなかった。


横を向く。城門脇。誰も気に留めない細い路地へ目をやる。何気ない顔で。いくつかの場所へ視線を走らせる。どこなら王宮の方角を見渡せるか。どこなら視界が開けているか。どこなら腰を落ち着けても目立たないか。琥珀色の瞳の中で。何かが。静かに。少しずつ。計算を始めていた。三か月は。


とても長い。そして。とても短い。

けれど。一人の流浪の騎士が。


一つの街で。腰を落ち着ける場所を見つけるには。十分な時間だった。

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Ioanna And Jeffery

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