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Ch12.城内の光

ロシニトロの城東には、セイラン通りと呼ばれる細い路地がある。


幅は狭く、二人で並んで入ろうとすれば身体を横へ向けなければならない。路地は両端とも別の道へ通じていたが、わざわざここを通り抜ける者はいなかった。遠回りしたほうが、かえって早いからだ。

だからこそ、この路地はほとんどいつも静かだった。路地の奥に住む老鍛冶屋が鉄を打つ音が、石壁に沿って幾度も跳ね返り、地の底から響いてくる鈍い音のように聞こえるほどに。


セイラン通りの三軒目には、色褪せた木の看板が掛かっていた。文字は何度も雨に打たれ、輪郭しか残らないほどぼやけていたが、近所の者は皆、そこが宿だと知っていた。大きくはない。二階に四つの部屋があり、一階には長いテーブルが一つ。女主人の本名を覚えている者はいなかった。皆、彼女をゲ夫人と呼んでいた。


ゲ夫人は多くの旅人を見てきた。それでも彼女は言う。三号室へ泊まったこの若者は、これまで出会った中でも、どこへ向かおうとしているのか説明できない、数少ない人間の一人だと。


彼が謎めいているからではない。たった今、足を止めたばかりの人間に見えるからだ。ここで止まってはいても、瞳の奥のどこかだけは、まだ完全には止まっていない。


ジェフリー・グラントは、セイラン通り三番地にある宿の三号室で、背負い袋を下ろした。


しばらく窓辺に立ち、外の狭い路地を見つめた。路地の先にある細い隙間からは、ちょうど城の東塔の頂が見えた。


この部屋をわざと選んだのではない。彼は自分にそう言った。


窓枠は古く、木は端から内側へ腐り始めていた。塗装はいつかの雨季を境に欠片となって剥がれ落ち、隅にだけ、まだ完全には剥がれきっていない灰白色が僅かに残っていた。

ジェフリーは右手を窓台へ置き、指の腹で木目をそっと押した。わずかに盛り上がった粗い感触を確かめる。彼は時折、不完全なものへ手で触れることを好んだ。それが習慣なのか、それとも自分自身が一度も完全だったことのない人間だからなのかは、分からなかった。


あの隙間は、まだそこにある。

城の東塔の頂は、途中で断ち切られた一つの文章のように、細い通りの果てで黄昏の空へ打ち込まれていた。


わざとではない。彼はもう一度、自分に言い聞かせた。それから黙ったまま、自分の指が窓台を離れ、ゆっくりと胸元へ移るのを見つめた。上着の布越しに、一度押す。


強くはない。ただ、確かめるために。

石の尖った角と、ペーパーナイフの薄い刃。二つの形が一枚の綿麻を隔て、二つの印章のように輪郭を鮮明にして掌へ触れていた。


眉がわずかに寄った。その皺はとても浅く、注意して見なければ気づけないほどだった。

琥珀色の目は塔の頂へ向けられていた。光は瞳の奥深くへ沈み、水を含んだ琥珀のようだった。透き通ってはいるが、澄んではいない。中には何かが固まっている。それが沈殿物なのか、まだ名を持たない考えなのかは分からなかった。


あの夜、塔の上へ身を潜め、彼女と話した。自分が何を言ったのか、覚えている。

彼女が何を言ったのかも、覚えている。


けれど、それ以上にはっきり覚えているのは、彼女があのナイフをそっと彼の手元へ押し出した仕草だった。言葉はなく、小さく、ほとんど力を加えたとも呼べない一押しだけだった。


その瞬間、彼の胸の中で何かが強く締まった。緩んでいた縄を、誰かが反対側から突然引いたように。


あのとき、彼は何も言わなかった。ただ、ナイフを握った。


背負い袋は壁際へ置かれ、まだ開かれていなかった。革についた旅の埃も、払われていない。

部屋は狭かった。寝台が一つ、小さな机が一つ。机の鉄製の燭台には、まだ火のついていない蝋燭が一本差してあった。

暮色が窓からゆっくりと流れ込み、部屋の隅々を曖昧な色に浸していった。暗いと言うには、まだ僅かな光がある。明るいと言うには、光があまりにも足りない。


今の彼という人間を表す、比喩のようでもあった。


ジェフリーは少しうつむき、口元をそっと動かした。笑みと呼べるほどではない。ただ表情から、何かがほんの僅かに漏れ出した。誰にも聞こえない冗談を、自分自身に語っているように。


ロシニトロに滞在して、すでに数日が過ぎていた。長くはない。けれど、短いとも言えない。

この街のことも、少しずつ分かってきた。どの通りの石板が緩んでいて足を取られるのか。城東のパン屋が朝の三つ目の鐘で焼き上げること。ゲ夫人のスープはいつも塩辛いが、どこから来て、どこへ行くのかは決して尋ねないこと。

彼はゲ夫人の、尋ねないという習慣が好きだった。もし尋ねられても、どう答えればいいのか分からなかったからだ。『夢を追っている』


その答えを七年間口にしてきたが、尋ねた者を一度も納得させられなかった。


けれど今、誰かに尋ねられたなら、「夢」という言葉さえ口にしづらい気がした。その言葉は突然、正確ではなくなったからだ。夢は虚ろなもの。眠らなければ入れない場所。目覚めれば瞼の裏へ引っ込んでしまう影。


だが塔の上で、彼女がナイフを押し出した仕草は現実だった。

あの瞬間、彼女の手の甲が彼の指の節へ触れた。冷たかった。紛れもなく現実の冷たさだった。

その温度を、「夢」という言葉で片づけることはできなかった。


彼は顔を上げ、もう一度あの隙間を見た。城の東塔の輪郭は暮色の中でぼやけ始めていたが、まだ完全には消えていない。立ち去ることを拒む一文字のように文末へ残り、最後まで読まれるのを待っていた。


ジェフリーは胸元から掌を離し、身を翻して机へ向かい、椅子へ腰を下ろした。

腰から剣を外して机の脚へ立て掛け、そのまま座っていた。肘を卓上へ置き、両手を組み、指の節へ顎を乗せ、まだ火のついていない蝋燭を見つめる。


三か月。彼女は自分のために、三か月を勝ち取った。

それは彼にとっても、三か月なのだと思った。

ただ、誰も口にしなかった。彼自身さえも。


右の親指が、左手の甲をゆっくりと擦った。無意識の小さな仕草だった。頭の中で何かを巡らせるときに現れる。いつから始まった癖なのか、自分でも分からない。両親がまだ生きていた頃かもしれない。それとも、その後に続いた長い放浪の夜か。独りで焚き火を見つめながら夜明けまで座り、手の中には名状しがたい何かを握っていた、あの幾つもの夜か。


窓の外で、誰かが路地を通り過ぎた。短い足音は、すぐに消えた。


城の東塔の頂は、今もあの隙間へ打ち込まれている。

ジェフリーはセイラン通り三番地、三号室の机に座っていた。灯りはつけず、暮色が部屋全体をゆっくり満たすままにした。

深くなる薄闇の中で、彼の表情は次第に見分けづらくなった。それでも琥珀色の目は閉じなかった。ずっと開いたまま、窓のほうを向いていた。


この部屋をわざと選んだわけではないと言った。それでも彼はここに座り、窓を開けたまま、閉じようとはしなかった。


________________________________



城の西翼にあるその窓は、城東へ向いていた。


イオアンナは、わざわざその方角を探したわけではない。自分にそう言い聞かせた。


けれど窓台の石は冷たかった。彼女は手の甲をそこへ押しつけ、冷気が指の骨を伝って上っていくのに任せた。それで少しでも自分を冷静にしようとするように。

外の空は一寸ずつ深い色へ沈んでいた。城東に連なる屋根の輪郭は、暮色の中で低く伏した灰色の線へぼやけている。その方角へさらに目を凝らしても、どの建物がどの通りにあるのか見分けられない。それでも彼女は灰色の線の中を長いあいだ探した。見つかるはずのない一つの窓を。


襟元を少し引き、顔を伏せて自分の手の甲を見た。


『今、彼は何をしているのだろう』その考えに理由はなかった。あるいは、理由が多すぎて、どこから始まったのか分からなかった。

城南へ続く道で出会ったときからか。彼が彼女の手を握ったときからか。それとももっと前。彼女がナイフを彼の手元へ押し出したあの朝、自分でもなぜそうしたのか分からなかった瞬間からか。


彼女は下唇を軽く噛んだ。強くではない。ただ自分を止めるための小さな仕草だった。「アディー」


声は大きくなかった。それでも、はっきりと届いた。


アディーは、いつも影のように扉のそばへ控えている人だった。足音を忍ばせ、必要以上の声量で話すことは決してない。

彼女は脇の扉から入ってきた。手には菓子を盛った皿があり、明らかに前もって用意していたものだった。夕食の前後になると、ここへ何かを少し届けるのが習慣になっている。アンナが食べる日もあれば、皿を脇へ押しやるだけの日もある。それでもアディーは変わらず、毎回運んできた。自分自身で決めた規則のように。


彼女は窓辺の小卓へ皿を置き、背を向けたアンナの輪郭へ目を向けた。何も言わず、ただ静かに待った。それは長い年月をかけて身につけた待ち方だった。急かさず、尋ねず。ただそこにいて、王女に自分がいることを知らせる。


アンナは振り返らなかった。「彼に会いたい」


平らな声で言った。天気の事実でも述べるように。それでもアディーには、その平静の底にあるものが聞こえた。思いつきの決定ではない。長いあいだ考え続け、たった今ようやく出口を見つけて口にした言葉だった。


アディーはしばらく黙った。その沈黙は迷いではなく、真剣に考えているからこそのものだった。「今、外へ出るのは無理です」彼女は小さな声で言った。「今日はクループが、西翼の見張りを別の者へ替えています。私の知らない者です」


アンナはようやく振り返り、窓枠へ背を預けた。腕を胸の前で組み、眉を僅かに寄せる。困っているのではない。計算していた。

その目には静かな鋭さがあった。宮殿で育つ中で身につけたもの。口にできない場所で計算を終え、表情には何も漏らさない。


「それなら、彼を中へ入れればいい」彼女は一秒置いて言った。「何か方法はある?」


石壁にさえ聞かれることを恐れるような、小さな声だった。それでも目を逸らさず、真っ直ぐアディーを見た。本人も気づいていないかもしれない懇願が宿っていた。それは王女の眼差しではない。心の中に生まれたばかりの脆い何かを握りしめ、信頼する人へ「これを守ることはできる?」と尋ねる、十八歳の少女の目だった。


アディーは彼女を見つめた。目尻で何かが僅かに動いた。胸の中の弦を一度弾かれたように。強くはない。それでも音は響いた。


彼女はうつむいてしばらく考え、それから菓子の皿をアンナのほうへ少し押した。その仕草が、考えを整える助けになるかのように。「セイラン通り」やがて彼女は言った。「城東のどこにあるか知っています」一度言葉を切る。「ゲ夫人の宿へ品物が持ち込まれるのは、初めてではありません。手紙のこともあれば、別のもののこともあります」


評価を交えず、ただ事実として述べた。長いあいだ観察し、心へ留めてきた事実を。「昼間、表の道を使わなければ、難しくはありません」


「ただ……」顔を上げ、アンナを真っ直ぐ見た。声は先ほどよりもさらに低かった。「彼へ、会いたがっていることを知らせなければなりません。でも、伝言を送る方法がありません。誰かが……」そこで言葉を止め、最後までは言わなかった。


途切れた言葉の先に何が続くのか、二人とも分かっていた。

その道を歩く者が必要だった。その危険を冒す者が。

アディーは「私が行きます」とは言わなかった。それでも答えはすでに眼差しの中にあり、静かにそこへ置かれていた。


窓の外では、城東を覆う暮色の灰色の線が、まだ完全には夜へ沈んでいなかった。


アディーの言葉を聞き、アンナはその示唆を掴んだようだった。

慌てて立ち上がり、羊皮紙と羽根ペンを取り出した。羊皮紙は燭光の下で淡い暖色を透かしている。それを机へ押し広げたとき、アンナの手は安定していた。


整った字で、沈着に書かなければならない。交渉するときの口調のように。一字一字に力を込め、一つ多くも、一つ少なくもならないように。そう自分へ言い聞かせた。けれどペン先へ墨をつけた途端、手首が少し速くなった。どうでもいいからではない。気にかけるあまり、心の中から何かが外へ押し出され、指の節を前へ進ませた。彼女には止められなかった。


『あなたが来る? それとも私が行く?』ただ、それだけだった。


最後の三文字は少し歪んだ。「私が行く」の「行」の最後に、余分な一画が伸びていた。その瞬間、心の中で何かがもう一言語り、抑えきれず、手が代わりに言葉を漏らしたように。彼女はその一文を二秒見つめたが、書き直さなかった。


二つに折り畳んだ。文字を内側へ向け、外から見えないよう、とても丁寧に。

それから髪へ手を伸ばし、飾りのない銀の簪を抜いた。普段それを身につけるのは軽いからであって、高価だからではない。けれど今、折り目へ差し込む仕草は、彼女とアディーだけが意味を知る印を厳かに押すようだった。


それをアディーへ差し出したとき、指がほんの一瞬だけ留まった。「急いで」そう言ってから、さらに低い声で付け加えた。「誰にも見られないで」


そう語る彼女の目は脇を向き、窓の外で深い青へ沈み始めた城東の空を見ていた。顔に目立った表情はなかったが、耳の根元だけは外の空より早く赤く染まり、灯りの下で、存在しないふりのできない淡い色を帯びていた。


アディーは簪と手紙を掌へ載せ、一言も余計なことは言わなかった。ただ頭を下げ、身を翻し、足音を忍ばせて脇の扉から出ていった。風に運ばれる影のように。


________________________________



この時刻のセイラン通りは、昼よりもさらに狭く感じられた。


夜になると壁が内側へ迫るからではない。両側の灯りがすべて消えると、路地に残るのは、頭上に走る深い青の細い空と、足裏で探る石畳だけになるからだ。


アディーが夜道を歩くのは初めてではない。それでも毎回、昼間よりも足音を軽くした。石畳に聞かれることを恐れるように。


ゲ夫人の宿には看板灯がなかった。それでも一階の窓の隙間から橙色の細い光が漏れ、それだけで入口を見分けられた。


三度叩き、間を置き、さらに二度叩いた。

ゲ夫人は扉を開けると彼女を一度見て、その手にあるものを一度見た。何も言わず、身体を脇へ寄せて道を空けた。


結局、ジェフリーは蝋燭へ火を灯していた。わざとではない。空が完全に暗くなると、部屋では本当に何も見えなくなったからだ。手探りで火口を擦ると、炎が跳ね上がり、小部屋を揺れる暖色の四角へ変えた。

その灯りを頼りに、机の脚に立て掛けた剣を膝へ載せ、細い麻布で刃をゆっくり磨いていた。それは彼の習慣だった。新しい場所へ着くたび、最初に真剣に行うのは剣を綺麗にすること。その動きで自分へ告げるように。俺はまだここにいる。俺はまだ俺だ。


誰かが扉を叩いた。


彼の手が一瞬止まった。本能による停止だった。驚いたのではない。動く前に、まず音を聞き分ける習慣だ。


二度、間を置き、一度。ゲ夫人ではない。彼女のノックは平らで、拍子を分けない。

剣を机の脇へそっと戻し、立ち上がって扉へ向かった。低い声で言う。「誰だ?」

「届け物があります」女の声だった。低く抑えられてはいたが、どこか聞き覚えがある。


彼は一秒待ち、扉を細く開いた。


燭光が外へ差し、扉の隙間に立つ細身の女を照らした。頭には濃い色の布を深く被り、顔の大半を隠している。けれど彼女は燭光の中へ手を差し出した。上向きの掌には、折り畳まれた羊皮紙と、飾りのない銀の簪が並んでいた。


ジェフリーの視線は簪へ落ちた。たった一度だけ。それきり、ほかへは移らなかった。


その簪を知っていた。何度も見たからではない。ほんの数度しか目にしていないのに、一度も忘れなかったからだ。彼には奇妙な癖があった。彼女に関わるものは、命じなくても目が勝手に覚える。


彼は扉を少し広く開け、手紙を受け取った。手は安定していた。けれど指先が簪へ触れた瞬間、喉元で何かが僅かに動いた。すぐに押し沈め、痕跡さえ残さなかった。


「彼女は無事か」声は平らで、ごく普通のことを尋ねるようだった。それでも目はアディーを見ておらず、伏せられ、折り畳まれた羊皮紙へ向けられていた。


アディーは彼を一度見て、一言だけ答えた。「はい」

彼は頷き、それ以上は尋ねなかった。半歩下がって少し空間を空けたが、アディーは中へ入るつもりはなかった。ただ入口に立って待った。彼が読み終えるのを。持ち帰れる答えを渡すのを。


ジェフリーは入口へ伸びる細い燭光の中で手紙を開き、うつむいた。


『あなたが来る? それとも私が行く?』ただ、それだけだった。


彼はその一文を一度読み、もう一度読んだ。意味が分からないからではない。筆跡が後半で僅かに乱れていたからだ。「行」の最後に余分な線が伸びている。彼の親指がその墨跡をそっと押した。その筆運びが本物なのか、彼女の手が残したものなのかを確かめるように。


本物だった。彼の口元が僅かに動いた。動きはあまりにも小さく、揺れる燭光の中では笑みだと見分けることさえ難しい。けれど彼自身には分かっていた。胸の内側で何かが静かにぶつかり、口元から漏れずにはいられなかった表情だと。


手紙をもう一度折り畳み、顔を上げてアディーを見た。


「俺が行く」その言葉に迷いはなかった。

声も大きくはない。あの一文と同じ、意味をはっきり伝えるのにちょうどいい大きさだった。それでも老鍛冶屋の残り火を打つ音まで聞こえるほど静かな細い路地へ落ちた言葉は、確かな重さを持っていた。一度口にすれば、もう取り消すつもりのない重さを。「入り方を教えてくれ」


アディーは彼を一度見定めた。疑っているのではない。これから歩く道を心の中でもう一度辿り、どこで注意し、どこで急ぎ、どこで彼を離さずついて来させるかを考えていた。


それから軽く頷き、半歩下がった。彼が簪をしまい、手紙を胸元へ入れ、蝋燭を吹き消し、上着の襟を高く引き上げ、剣を腰へ戻すのを待った。そのすべてを見ても何も言わず、身を翻してセイラン通りの奥へ歩き出した。影のように軽く、それでも道を知る足取りだった。自分が人をどこへ導いているのか、分かっている者の歩き方。


ジェフリーはあとに続いた。行き先は尋ねなかった。

城の東塔がどちらにあるのかは、ずっと分かっていたから。


________________________________



その頃、アンナは部屋で焦りながら待っていた。じっと座ってなどいられず、何度も部屋を行き来し、数え切れない場面を想像していた。


もし彼が来られないなら、あとでどの道を使って城を出る? クループが新しく配置した者は勘が鋭く、隙がないのではないか。彼が来るなら、無事に入れるだろうか。見つかったらどうする?


本当に座っていられず、緊張のあまり親指の爪まで噛んでいた。

それでも本当に、彼に会いたかった。

部屋を何往復したのか、自分でも数えられない。


窓辺から扉へ。扉から机へ。机からまた窓辺へ。その道筋は頭の中ですでに溝となり、考えなくても足が勝手に辿った。

机の上では蝋燭が燃えていた。彼女がそばを通るたび、起こった空気で炎が片側へ傾く。傾いては戻り、戻ってはまた傾く。まるで炎まで彼女と一緒に行き来しているようだった。


彼女は足を止め、窓辺に立って城東を一度見た。何も見えない。


夜は一枚の塊となり、深い青が墨へ押し固められていた。城東の屋根の輪郭はすべてその中へ沈み、城の東塔の頂さえ、ぼんやりとした濃い影しか残していない。そこに何があるのか知っていなければ、その形が何なのか見分けられなかっただろう。


彼女は身を翻し、また歩き始めた。


今日クループと交代したあの男の顔を、彼女は頭の中で思い返した。

背が高く、姿勢はまっすぐで、目はやや細い。食堂で遠くから一度だけ見たことがある。たった一度だったが、彼女は昔から、気に入らないものほどよく覚えている。その顔も、そうして脳裏に焼きついていた。


目の細い人間は、たいてい騙しにくい。


彼女は親指の爪を噛んだ。癖ではない。その考えのせいで、噛みしめた歯が力をかける場所を探したのだ。爪の縁に小さなささくれがあり、歯先がちょうどそこに引っかかった。そこで自分が何をしているのかに気づき、手を口元から下ろした。


幼いころ、彼女にはこの癖があった。父に何度も罰せられた。そんな仕草は品がなく、王女らしくない、と。

その後、彼女は直した。少なくとも、自分では直したつもりだった。


爪をちらりと見下ろすと、その手を半ば握りしめて下腹部の前に置き、もう一方の手で包んだ。少しでも落ち着いて見えるようにしたかった。


無駄だった。足はまた歩き始めた。

もし彼が来るなら、どの道から入るのだろう。彼女は城の西翼の側壁を頭の中でたどった。アディーが言っていたあの隙間なら知っている。自分もそこから外へ出たことがある。亀裂は狭く、彼女なら身体を横にすれば通れた。彼はどうだろう。彼女より頭ひとつ分以上も高い。あの隙間を抜けられるだろうか。


彼女はまた足を止めた。

なぜかその考えで、胸の中の張りつめた弦がふっと緩んだ。安心したからではない。とても背の高い男が細い隙間を通り抜けようとする光景があまりに具体的で、少し滑稽だったからだ。滑稽すぎて、口元が勝手にわずかに動いた。


ほんの一瞬だった。すぐに元へ戻った。


彼女は机まで歩き、天板に手をついて、うつむいたまま木目を見つめた。自分の重みを、動かない何かに預けようとする姿勢だった。まっすぐ立っていると脚に力が入らない。疲れではない。待つという行為に、内側からすっかりくり抜かれていくような感覚だった。時間が引き延ばされ、一秒一秒が普段よりも重く、分厚くなっているようだった。


蝋燭はほんの少し短くなった。彼女は顔を上げ、また窓の外を見た。

彼がもう道の途中にいるのか、彼女にはわからなかった。

何ひとつわからない。わかっているのは、手紙をアディーが持っていったことだけ。手を離れた以上、もう何ひとつ自分では制御できない。そして彼女が生涯で最も耐えがたいのは、まさに自分の手の及ばないものだった。


彼女はもう一度親指を口元へ運び、また下ろした。

目を閉じて深く息を吸い、その息が鼻からゆっくり胸へ沈んでいくのを感じ、それからゆっくり吐き出した。宴の間へ連れ出される前に身につけた、倒れずにいるための方法だった。背筋を伸ばして入らなければならない部屋の扉の前で、彼女はいつも一度こうして呼吸した。


息を吐ききり、彼女は再び目を開けた。

窓の外は相変わらず暗く、何の気配もなかった。

彼女は窓辺に立ち、窓枠の木の縁へ指先をそっと当てた。夜の石の隙間に特有の冷気を帯びた風が窓の隙間から入り込み、耳元の後れ毛を何本か持ち上げた。彼女は直そうともせず、なびくままにした。


彼に会いたかった。

待つことも、先延ばしにすることも、数日後でいいと自分に言い聞かせることもできるような「会いたい」ではない。今、この瞬間、今夜。会えなければ、この夜には欠けた場所が残ってしまう。彼女には、すでに欠けた夜が多すぎた。これ以上、もう一つ増やしたくなかった。


彼女はその思いを胸の奥で押しつぶし、平たくして、しまい込んだ。口に出せないすべてのことに、いつもそうしてきたように。けれど、それはまだそこにあった。押しつぶしても、しまい込んでも、まだある。赤く焼けた炭のように、置こうとすればするほど手を焼いた。


蝋燭はまた少し短くなった。彼女はそれを見つめ、蝋の涙がゆっくり胴を伝い、根元で固まって小さな白い塊になるのを見ていた。やがて視線はまた窓へ、何も見えない夜更けの城の東側へと漂い戻った。


彼女は待っていた。待つのは得意ではない。それでも、待っていた。


窓の外の濃い影は動かなかった。

アンナは窓から視線を戻し、部屋の中へ落とした。蝋燭、机、壁の隅、すでに十数回も見渡した場所すべてへ。どれも元の位置にあり、何ひとつ変わっていない。この部屋は、伏せた甕の中のように静かだった。彼女はその内側に閉じ込められ、外で何が起きているのか何も知らない。


彼女はここに留まり、自分をここへ縫い止めた。背骨という釘で、爪に食い込ませた歯という釘で、心の中で何度も唱え、もはや呪文のようになったあの言葉という釘で――

蝋燭はまた少し燃え、蝋の涙が胴を滑り落ち、台座で固まった。冷え、白くなり、別の形になる。彼女はその形を見つめたまま、動かなかった。


そのとき、廊下の奥で、ごくかすかな音がした。


あまりに小さく、自分の耳に騙されたのかと思うほどだった。

足音ではない。足音なら一定のリズムがある。その音にリズムはなく、ただ一度きりだった。何かがそっと石壁に触れたような音。脇道の曲がり角をよく知っていながら、暗闇の中で自分の肩幅を少し見誤った誰かのような。

アンナの身体は一瞬で強張った。動かず、呼吸さえ半拍止め、すべての感覚を集めて耳へ押し込み、息を潜めて聞いた。


次は、扉の前だった。

三回、間を置き、二回。アディーの合図だとわかった。だが、叩く力が違う。


アディーの手は小さく、叩く音も細い。この音はもう少し重かった。誰にも気づかれまいとしながら、それでも確かに扉を叩く者が、指の背でできるだけ力を抑えて叩いたような、ちょうどよい重さだった。


アンナの脚が動いた。歩き出したことを自分でもほとんど意識しないまま扉へ向かい、取っ手に手をかけ、一秒だけ止まった。その一秒だけを自分に与え、喉元までせり上がった鼓動を胸へ押し戻す。それから扉を開けた。


扉の隙間から差し込んだのは廊下の濃紺の闇と、それよりさらに濃く、はっきりした一つの輪郭だった。

濃い褐色の短い髪は夜闇に紛れて細部まで見えない。けれど琥珀色の瞳が、彼女の部屋からこぼれたわずかな燭光を受けて光った。火を灯された二粒の琥珀のように、その輪郭の上半分で静かに燃え、彼女を見下ろしていた。


左の額にある薄い小さな傷痕。彼女はそれを知っていた。一言も発さず、取っ手を握ったままそこに立ち、彼を見た。一晩中待ち続け、頭の中でいくつもの悪い結末を思い描いていた相手が、無事ここにいることを端から端まで確かめた。


扉を開けると、そこにいたのはジェフリーだった。


アンナの鼓動が速くなった。緊張と高揚の両方からだった。人目を忍ぶ逢瀬への緊張、そして、ようやく会いたかった人に会えたという高揚。


彼女はジェフリーをさっと中へ引き入れ、扉を閉めて鍵をかけた。「怖くてたまらなかったわ。見つかるんじゃないかと思って」そう言いながら、もう抑えきれずに彼へ抱きついていた。百六十センチにも満たない小柄な彼女は、ちょうど彼の胸へ顔を埋められた。すべてがあまりにも自然だった。「ここまで、何事もなかった?」気遣わしげに尋ねながらも、まだ彼を放したくなかった。


ジェフリーが言葉を発するより先に、手首をつかまれた。


強くはないが、迷いのないつかみ方だった。彼女の指が彼の手首を囲み、内側へ引く。その力に従って彼は扉をくぐり、靴の踵が室内の木床を踏んだ。背後で扉が閉じる音がし、閂が押し込まれる音がした。それは、彼女が世界のすべてを外へ締め出す動作だった。

そして彼女は彼を抱きしめた。彼には予想できなかった。いや、予想する暇さえなかった。扉の閉まる音とその動きは、ほとんど同時だったからだ。気づいたときには、もう彼女がそこにいた。


彼女の額が彼の胸に触れ、両腕が腰の両脇を抱いていた。外套越しに伝わる呼吸は少し速く、ひとりで長く待ちすぎた者に残る細かな余震を帯びていた。

ジェフリーはうつむき、彼女の頭頂を覆う濃い色の髪を見た。髪からこぼれ落ち、留め直すのを忘れた一筋の後れ毛が耳元にかかり、呼吸に合わせてかすかに揺れていた。


彼の胸の中で、何かがそっと落ち着いた。一晩中宙に浮いていた石が、ようやく地面を見つけたように。


彼はゆっくり右腕を上げ、彼女を囲むように回し、掌を背中へ置いた。強くはないが、揺るがなかった。それは自分でも気づかないほど馴染んだ動きで、その手は命じられなくても行くべき場所を知っているようだった。腕をひと曲げするだけで全身を包めるほど、彼女は彼の腕の中で小さい。彼はふいに、彼女の「怖くてたまらなかった」という言葉を思い出した。この部屋をひとりで行き来していた姿を、そしてあの手紙の最後に、わずかに乱れた字で書かれた「行って」という言葉を思い出した。


彼の口元がわずかに動いた。彼女には見せなかった。


「無事だった」彼は声を落として言った。闇の中をしばらく歩いた者だけが持つ、低い響きだった。「アディーが選んだ道は悪くない」話すとき、顎をわずかに引いた。その角度で、声は胸の内側から低く共鳴して届く。彼の胸へ額をつけている者にはわかっただろう。その言葉は口先からではなく、胸全体から送り出されているのだと。


左手をゆっくり上げ、親指で彼女の肩にかかったままの後れ毛をそっと払った。何気ない仕草のようにごく軽く。だが指の腹を髪が滑り抜けるその一秒、彼の動きは止まった。


「ただ、西翼の角だけは」彼は一度言葉を切った。口調は変わらず平静だったが、抑えきれなかった何かがほんの少し、その平静さからこぼれた。「石壁の隙間が、思っていたより少し狭かった」どうやって通ったのかまでは言わなかった。けれど右肩の外套には、薄い擦れ跡がある。石灰の白さが、燭光の中でかすかに浮かんでは消えていた。


彼は何も言わなかった。彼女も、見なければ気づかなかっただろう。


掌はまだ彼女の背中にあり、急いでいた呼吸が少しずつ穏やかになっていくのを感じていた。静かに収まっていく一陣の風のようだった。彼はそのまま待った。待ち続けた余震を彼女がすべて吐き出すまで、ここでしっかり足をつけられるようになるまで。


「ずいぶん待ったんだな」問いかけではなく、言い切る言葉だった。彼らしい、穏やかでありながらまっすぐな確信が声にあった。彼はわかっている。尋ねるのではなく、わかっていると彼女に伝えただけだった。


石壁の話を聞くと、アンナは声を立てて笑った。自分も通ったことがあるから、そこがどれほど狭いか知っている。彼がどれほど苦労したか、想像できた。「知ってる。私も通ったもの……それに……」彼女の目が弧を描くように細められた。「途中まで行くと、なぜかあそこだけ特に狭いのよね」


ジェフリーの右肩についた石灰に気づき、彼女は手を伸ばしてそっと払い落とした。


「本当に大変だったでしょう」その声は知らず知らずのうちに優しくなり、女性らしい柔らかな力に満ちて、人を酔わせるようだった。他人の前で見せる彼女とは、まるで違っていた。


「疲れた? 座りましょう」彼女は彼を放し、その手を引いてソファのそばへ連れていった。「このところ、何か面白いことがなかったか聞きたいわ」


彼のことを知りたかった。


その笑い声は、彼にとって思いがけないものだった。彼女が笑わないからではない。あまりに自然な笑いだったからだ。自然すぎて、胸の内側に何かがぶつかり、そこで初めて彼は気づいた。

笑うと彼女の目は弧を描くように細まり、両端にも浅い曲線が生まれた。いつもは相手を値踏みするようなその目がすっかりほどけ、とても軽く、確かなものへ変わる。水面に映る燭光のように、揺れていながら、温かかった。


ジェフリーはうつむいて彼女を見た。口元を引き締めようとしたが、うまくいかなかった。「あの辺りは」声には、自分でも隠すつもりのないわずかな困惑が混じっていた。「壁そのものだと思っていた」


彼女の手が右肩を払うと、彼はわずかに首を傾け、視線をその手の甲へ落とした。細い指で、払う力も軽い。石灰の粉が布地から少しずつ散っていく。彼女は白い跡を丁寧に落とし、眉間をほんのわずかに寄せていた。しかめ面ではなく、きちんとやり遂げるべきことに集中した、小さな表情だった。


「本当に大変だったでしょう」その声はとても軽く、本人さえ気づいていないような温もりを帯びていた。喉のいちばん奥から滲み出たような声。王女の口調でも、宴の間で背筋を伸ばし、誰にも胸の内を読ませないあの声でもない。鍵をかけた扉の向こう、燭火と彼しかいない場所でだけ、こぼれる別の声だった。


ジェフリーの右手がわずかに動いた。けれど彼はその動きを抑え、最後まで続けさせなかった。


彼は彼女に手を引かれてソファへ向かった。彼女自身、自分がどれほど自然に彼の手を取ったのか気づいていなかっただろう。ためらいのない仕草だった。当然のように、その手は初めからその方向へ向かうものだったかのように。

彼はつないだ手をちらりと見下ろした。彼女の指が、彼の掌にある厚いまめの間へ収まっている。握り返すことはせず、ただ引かれるまま、彼女の足取りに合わせて数歩進んだ。


彼女が腰を下ろし、彼も隣に座った。二人の間にはわずかな距離があった。遠くはない。身体を傾ければ触れられるほどの距離だった。


彼はソファの背にもたれ、肩の力を抜いた。入城して以来、身体が本当に緩んだのは初めてだった。ここまでの道中、彼はずっと身を張りつめ、曲がり角では必ず耳を澄ませてから進み、右手を剣の柄から遠ざけなかった。七年の旅で身についた緊張で、考えずとも自然にそこにあるものだった。

だが今、扉には鍵がかかっている。アンナが隣に座り、燭火は安定して燃えている。彼の背は、ほんの少し後ろへ預けられた。


「面白いこと、か」彼は彼女の言葉を繰り返し、うつむいて少し考えた。琥珀色の目は前方へ向き、本気で記憶をたどっている顔だった。「ゲ夫人のスープは、毎日同じくらい塩辛い」平坦な口調だったが、目尻にはごく薄い曲線が浮かんだ。彼が真顔で冗談を言うときの表情だ。笑ってはいないが、可笑しいとわかって言っているのだと伝わる。


「初日は、今日だけ特別なのかと思った」顔を向け、彼女を見る。「三日目には、それが彼女の基準だと確信した」そこで一度間を置いた。その沈黙の中を、ごくかすかな何かが流れた。彼女が本当に聞きたいのか、それとも彼に話させる口実を探しただけなのか、確かめるように。


彼女の目は彼を見つめ、瞳の奥に燭光を映していた。その光は真剣で、礼儀から向けられたものではなかった。


彼女は本当に知りたかったのだ。ここ数日の彼の様子を、自分のいなかった時間を、彼がどう過ごしていたのかを。


彼にもそれがわかった。だから話を続け、声からさらに力を抜いた。「城の東に鍛冶屋がある。鉄を打つ音が石壁に反響するんだ」彼は言った。「最初の晩は、地下で火事が起きたのかと思った。辺りを半周探して、やっとわかった」


「半周探した」と言ったとき、眉尻がわずかに動いた。彼の顔には滅多に出ない、少しばつの悪そうな表情だった。ほんの少しだけ、一瞬で消えた。真夜中に宿の周りを歩き回って火元を探す自分が目の前を横切ったように、彼はその姿を一秒だけアンナに見せ、すぐ表情をしまい込んだ。


右手は膝の上にあり、親指が人差し指の関節をゆっくり一度こすった。


「君は」声が半音低くなった。わざとではない。本当に気にかけていることを尋ねるとき、自然に沈む声だった。「この数日、変わりなかったか」


アンナは目を輝かせてジェフリーを見つめ、一言も聞き漏らさなかった。

彼が語ることは、アンナにはどれもひどく目新しかった。自分ではまったく経験する機会のないことばかりだった。


静かに耳を傾けていると、時間までこの瞬間で止まったように思えた。静かで、美しかった。

彼の話を聞く間、彼女はずっとその唇を見つめていた。耳で聞くだけでは足りず、唇の動きまで目に刻みつけようとするかのように。


そう、ゲ夫人のスープは塩辛いのね?

それなら、偶数日の当番をするあの老料理人と同じだ。年を取って、味を感じるには調味料を多くしなければならないのかもしれない。

それに、鉄を打つと火花が散るのね?

剣がまだ形になる前の姿など、彼女は一度も見たことがなかった。


どれも新鮮だった。豊かさに満ちた牢獄で暮らす彼女にとっては。

「え? 私?」彼の低い問いかけに、思考を引き戻された。その低さの意味はわかった。彼にとって大切な問いなのだ。「別に……いつもどおりよ。あなたの話に比べたら」一度言葉を切り、それから微笑んだ。「知っているでしょう。王宮での暮らしなんて、こんなにも退屈なの」


ジェフリーはすぐには答えなかった。ただ彼女を見つめた。「いつもどおり」と言うときに持ち上がった口元の曲線を見ていた。その笑顔が美しいことは知っている。だが同時に、それが何かを遮るための笑みだということも知っていた。問いをそっと押し返すために、彼女が使い慣れた微笑み。磨き上げられた銅鏡のように、見えるのは反射だけで、その向こうにあるものは映さない。


彼は七年、人々の間をさすらい、さまざまな笑みを見てきた。彼女のそれは、初めて目にしたときから見抜いていた。


「退屈」彼はその言葉を繰り返した。強い調子ではなく、そっくりそのまま彼女へ返し、他人の口から聞けばどう響くかを聞かせるように。「本当にそう思っているのか。それとも、そう言うことに慣れているだけか?」問いかけながらも距離は詰めず、身体はまだソファの背に預けたまま、姿勢もくつろいでいる。だが視線は外さなかった。琥珀色の目が彼女の顔に注がれ、彼らしい穏やかさと、見過ごそうとしない真剣さを帯びていた。


尋問ではない。本当に知りたい者だけが持つ眼差しだった。彼の注意のすべてが彼女ひとりへ注がれている。王女だからでも、身分や来歴のためでもない。ただ彼女が彼女であり、今、完全には真実でないと彼が感じる言葉を口にしたからだった。


城の夜風が窓の隙間から細く入り、燭火がわずかに傾いた。壁に映る二人の影を細長く引き延ばし、やがてまた安定した。


ジェフリーは右手を膝から少しずらし、人差し指をソファの布へそっと当てた。それ以上は動かず、ただ待った。彼女が「いつもどおり」の向こう側にあるものから、話してもよいと思える部分を選び、自分に話してくれるのを。「ゲ夫人のスープは」一拍置いて、彼は言った。声には、ごくまれにしか見せない軽さがあった。冗談ではなく、張りつめた空気を少しだけ緩めようとする彼なりのやり方だった。「塩辛いことは塩辛いが、彼女は決して、どこから来たのかとは聞かない」また一度言葉を切った。「それも一つの優しさだと、ずっと思っている」


彼女を見つめる目の奥で、何かがゆっくり流れた。「ここで」彼は言った。「君が何を望んでいるのか、誰かが尋ねたことはあるか」三か月のことでも、ジーロンのことでも、政略結婚のことでもない。彼が尋ねたのは、もっと前にある問いだった。彼女が「いつもどおり」と言うより前から、ずっとそこにあった問い。


とても静かな問いかけだった。揺れる燭光の空気に落ちれば、ごく日常的な話のように聞こえるほどに。だが、そうではない。二人とも、それを知っていた。


その問いに、アンナは目を見開いた。


自分が何を望むのか、誰かに尋ねられたことはあるか? 何もかもが周到に決められ、自分の考えさえ自分のものにはできないこの王宮で、その問いは冒瀆であり、王家の尊厳を損なうものだった。


けれど、確かに一度、その問いを向けてくれた人がいた。アディーだ。


「あるわ……覚えている限り、一度は……」淡々と答え、視線を落とした。この問いに向き合うこと自体に圧迫されているようだった。あるいは、身体に染み込んだ反応なのかもしれない。


なぜ「自分が何を望むか」ということにさえ、これほど罪悪感を抱くのだろう。


ジェフリーは何も言わなかった。「あるわ……覚えている限り、一度は……」という言葉を、その声に混じったものごと聞いていた。言い終えたあと、彼女の声がそっと落ちていくのも。風ひとつないのに、自ら地へ落ちていく一枚の葉のように。


彼は伏せられた目を見つめた。普段、その瞳には光がある。話すときに冷たい炎のようなものを宿すのも、塔の頂で何もかも見透かしたような疲れを浮かべるのも、城の南の道で顔を上げたとき、もう一度輝き出したのも見てきた。


だが今、その目は下を向いている。問いの重みが瞼にのしかかり、上を向いていられなくなったかのように。


彼は追及しなかった。ただ右手をソファの布からゆっくり離し、彼女の膝に置かれた手のそばへ移した。そして手の甲を、その手の甲へそっと重ねた。握るのではなく、ただ覆う。温かなものを冷たいものの上へ置き、熱がゆっくり伝わるのを待つように。


「いいか」声は先ほどよりさらに低く、この燭光の届く範囲にしか存在しないほどだった。「その問いは、もともと君のものなんだ」一度止まり、「冒瀆でも、分を越えたことでもない」


彼は言った。平静な口調には、長年外を旅してきた者にしか持てない確信があった。あまりに多くの土地、人々、生き方を見てきたからこそ、当然だと言い聞かされていることの中には、決して当然ではないものがあると知っている。「君のものは、君のものだ」


窓の外から夜風が細く漏れ込み、燭火が一度低くなって、またまっすぐ立った。


ジェフリーはうつむき、伏せた睫毛へ視線を落とした。その弧が燭光の中に薄い影をつくっている。彼はその影を見つめた。声には、痛ましさのようなものがあった。だが彼はその言葉を使わず、ただこう言った。「アディーが尋ねたんだな」


問いではなく、確かめる言葉だった。彼女の口にした「ある」を受け止め、手放さなかった。


「なら」親指がそっと動き、手の甲をほんのかすかに押した。「今は、もう一人、君に尋ねている者がいる」


彼の目は彼女を待った。伏せた視線がもう一度上がるのを、急かさずに。彼は待つことには慣れている。七年も待ってきたのだ。彼女が顔を上げるまでの時間くらい、いくらでも待てた。


指先が自分を押したのを感じた瞬間、アンナは手の角度を変え、彼の手を握った。安心できるものを探すように。

「ええ……アディーは確かに尋ねてくれたわ。いつも私を気にかけてくれるから……」彼女はゆっくり顔を上げ、彼の言葉を一つひとつ噛みしめた。彼も同じ問いを自分に向けている。彼女の思いを大切にしているのだ。


「私は……」一度言葉を切った。あまりに長い間で、この問いには続きなどないのかと思えるほどだった。「誰かに……私を心に留めていてほしい……」また止まる。「そうしたら、私はもう何も怖くないから……」


高貴な身分の王女が望むものは、驚くほどささやかだった。何も求めず、ただ誰かの心の中に自分がいてほしいと願っている。


彼女自身が、多くのものを心に留めているように。


彼女の手が返され、自分の手を握った瞬間、ジェフリーの指がわずかに縮んだ。

驚いたからではない。何かにそっと打たれたとき、身体だけが見せる最も正直な反応だった。彼女の指が掌へ食い込む力には、本人も気づいていないのだろう。強くはないが、確かだった。暗闇の中でようやく何かに触れた者が、つかんだらもう放したくないとでもいうように。彼は動かず、そのまま握らせた。


「誰かに……私を心に留めていてほしい……」その言葉が落ちたとき、部屋は燭火の燃える微かな音さえ聞こえそうなほど静かだった。


彼は彼女を見つめた。その言葉を口にしたあとの瞳を。弱さではない。彼女は決して、ただ脆い人ではない。それはむしろ、暗闇の中を長く探り続けた者が、深く埋もれていたものをようやく土から掘り出し、掌へ載せた姿に似ていた。それに掘り出すだけの価値があるのか、本人にもまだわからないまま示す、慎重でひたむきな誠実さだった。


ジェフリーの喉が動いた。彼はうつむき、重なった二人の手へ視線を落とした。彼女の細く白い指の関節と、七年の旅で彼の掌に残った厚いまめ。同じ場所にあるその二つを、長く見つめた。燭火が傾いても顔を上げないほど、長く。


やがて彼は口を開いた。「アンナ」

ただ彼女の名前だけ。けれどその名を呼ぶ声は深く沈み、ある重みを帯びていた。押さえつける重さではない。ひとりの人間がもうひとりを真剣に眼差しの中へ置くとき、声が自然にまとう重みだった。


彼は顔を上げ、まっすぐ彼女を見た。


「君は」彼はゆっくりと言った。きちんと伝えたいことを話すときの、彼特有の速さだった。「まるで、それがとても小さな願いであるかのように言うんだな」


彼の親指が、彼女の手の甲をそっとなぞった。指の骨の輪郭に沿う、ゆっくりとした動きだった。すでに知っている一行の文字を、それでももう一度読み返すように。


「だが、知っているか」彼は目を逸らさず、燭火の中で琥珀色の光を穏やかに燃やしていた。「俺は七年、さすらってきた」一度言葉を切った。その間には、口にしなかったすべての夜、進む向きを変えたすべての分かれ道、小石を握りしめて夜明けまで座ったすべての朝が詰まっていた。「その一歩一歩が、君へ向かうものだった」


彼の指が少し閉じ、彼女の手を先ほどより確かに包んだ。強くはない。それでも包み込む重みが伝わった。「君が言ったことは」二人の間にしか届かないほど低い声で、彼は言った。「君があの短剣を俺の手元へ置いた瞬間から、もう本当のことになっていた」


「そうする」とも、「そうしたい」とも言わなかった。彼が口にしたのは、「もう、そうなっていた」だった。


約束ではない。事実を告げている。ずっと前に起きていて、ただ今になってようやく言葉にする瞬間を見つけた事実だった。


二人の間で燭火が静かに燃え、それぞれの顔を同じ暖色の輪の中へ照らし出した。ジェフリーは彼女を見つめ、その言葉が心のいちばん深い場所へ届くのを、彼の意味することを彼女が理解するのを待った。


左の額の薄い傷痕も、掌の厚いまめも、あの七年間も、彼のものだった。そのすべてを鍵のかかった扉の内側へ、彼女の前へ持ってきた。外には何ひとつ残してこなかった。


彼女には言葉の意味がわかった。本当に自分のものなのか、夢ではないのかを確かめるように、握る手へさらに力を込めた。


彼女の夢は、ジェフリーの夢とは違った。

彼の夢は探し続けるもの。彼女の夢は、必死に引き留めようとするものだった。

夢から覚めるたび、彼女の手元には何も残らない。


「あなた……はっきり言わないのが癖なの?……」重くなった空気を少し崩そうとする笑みを含め、彼女は小さく尋ねた。


そう言われたジェフリーは、一秒黙った。


そして笑った。口元だけをわずかに動かして、すぐ抑えるようないつもの笑みではない。本当に声を漏らして笑った。胸の内側から息とともにこぼれた、低く短い笑いだった。彼女の言葉が、彼自身も自覚しながら胸の片隅へ隠していた事実を見事に突き、いつものように表情を抑えきれなくなったのだ。


彼はうつむき、空いている手を口元へ当てて笑いを隠そうとしたが、うまくいかなかった。


「そうだ」声には、先ほどの笑いの温もりがまだ残っていた。思いがけないほど素直な肯定だった。もう一度顔を上げて彼女を見る。その目の光は力が抜け、彼が滅多に見せないほど無防備だった。さすらいの騎士の落ち着きでも、暗い廊下で右手を剣の柄の近くに置く者の緊張でもない。ただの彼だった。彼女の一言に言い当てられ、隠れる場所を少し失った彼自身。


「俺の母は」一度言葉を切った。その間には遠い記憶があったが、重くはない。もう取り出して語れるようになった過去だった。「魔女で、暗喩を好んだ。何を言うにも三つは角を曲がる。花の話をしていると思えば本当は雨のことで、雨の話をしていると思えば本当は誰かのことだった」


親指が彼女の手の甲でわずかに動いた。「子どものころから母の話し方を聞いていたから、たぶん……悪い癖が移ったんだ」


「悪い癖」と言う声は平静だったが、目尻には細い弧が残っている。まだ笑みをすべてしまい切れていない跡だった。


やがて彼は彼女をまっすぐ見た。緩んだ表情がゆっくり落ち着き、別のものへ変わる。先ほどの軽さではなく、もっと深いもの。慣れきった回りくどさを外したあと、その下から姿を現した本当の彼だった。


「なら、はっきり言おう」声が半音低くなった。意図して下げたのではない。心から口元へ運ばれる言葉が、自然に帯びる重さだった。


「君を心に留めている、アンナ」回り道はしなかった。ただその一言だけ。胸から一本の線を引き出し、まっすぐ彼女の前へ置くような言葉だった。手に取り、確かめ、夢でも暗喩でもないと知ることができるように。「これで、十分はっきりしたか?」


そう言った口元が、またわずかに動いた。先ほどの笑いの名残を含む軽い動きだった。だが目は真剣で、その言葉の裏に別の意味があるのではないかと疑う余地もないほどだった。


「君を心に留めている」という言葉は、焼き鏝のようにアンナの心へ刻まれた。


今や、彼が彼女を心に留めているだけではない。彼女も同じだった。


彼の親指が手の甲を撫でるのを感じ、アンナの口元はゆっくり上がった。心の空白がずいぶん満たされ、頬にも赤みが差す。それは、愛する人へ少女が向ける微笑みだった。「本当は、はっきり言わなくてもいいの。だって私が問いつめるから」


彼女は身体を少し前へずらし、さらに近づいた。「私はとても好奇心が強いの。知りたいと思ったら、必ず方法を見つけるわ……」彼の手をそっと持ち上げ、自分の顔の前へ運ぶ。「だから、その悪い癖は直さなくてもいいのよ」


一度動きを止めた。あることをしてよいか、迷っていた。


ジェフリーは動かなかった。彼女が自分の手を持ち上げ、その両手で包み、二人の間の空気へ掲げるのを見ていた。燭光の下、掌の一本一本の筋も、長年剣を握って厚くなったまめも、すべてがあらわになり、はっきり照らされた。


彼は自分の手をこんなふうに見つめられることに慣れていなかった。恥ずかしいのではない。何かをめくられ、内側を開かれたような、言葉にできない感覚だった。


そのまめは七年の歳月だった。掌の線には、さらに長い時が刻まれている。両親がまだいたころ、森が大火に包まれたあと、ひとり荒れた道で剣の柄を握り、夜明けまで座り続けた夜のすべて。


彼はそれを人に見せたことがない。隠していたからではなく、見ようとする人などいなかったからだ。だが彼女は手を持ち上げ、包み、真剣に目の前へ置いた。ジェフリーの喉がかすかに動く。その動きはとても小さく、自分でもほとんど気づかなかった。


「私はとても好奇心が強いの。知りたいと思ったら、必ず方法を見つけるわ……」


彼女が馬で城を出たあの朝を思い出した。「あなたを失いたくない」と言った声を、書斎の扉で「条件を話しに来たの」と告げた足音を思い出した。


本気なのだと彼にはわかった。彼女はひとたび何かを求めると決めれば、それを手に入れに行く。回り道もせず、待ちもせず、まっすぐ手を伸ばす。


だから「その悪い癖は直さなくてもいい」と言われたとき、彼の口元が動いた。その曲線には、軽く温かな何かがあった。他人の前では決して見せない表情だった。


彼はうつむき、彼女が自分の手を包む姿へ視線を落とした。彼女の頬は赤く、燭光がその赤みをいっそう深くしている。彼の顔ではなく、手を見つめていた。だが睫毛がかすかに揺れた。胸の中で何かを決めかけ、踏み越えようとして、まだ越えきれない場所に立ち止まっているように。


迷いだ。彼はその迷いに気づいた。


ジェフリーは何も言わなかった。尋ねず、彼女へ圧力もかけなかった。ただ手をそっと返し、掌を上へ向け、そのまま彼女の手の中で開いてみせた。何をしたいのでも、俺はここにいる――そう伝えるように。


彼の視線は彼女の手から顔へ上がり、迷いを浮かべた表情で止まった。燭光が琥珀色の瞳で燃えている。彼らしい、穏やかで揺るがない待ち方だった。


彼が掌を上へ向けるのを見た。彼女のしたいことを当てたわけではない。それでも構わない、とアンナは思った。しようとしていることには、何の差し障りもない。


厚いまめは主に親指と人差し指の間にあり、掌にも三本の指の付け根にいくつかあった。彼女は何かを感じ取ろうとするように、そこをそっと撫でた。鼓動が速まり、呼吸も少し急いで、顔の赤みはまだ引かなかった。


最後にもう一度考え、やはりそうしようと決めた。ゆっくり頭を下げると、こぼれた髪がジェフリーの掌の側面をそっとかすめた。そして唇を、開かれた掌へ軽く重ねた。


ひとつの口づけを終え、彼女の口元はまたわずかに上がった。顔を上げ、笑みを宿した目で彼を見た。


ジェフリーは動かなかった。最初に触れたのは彼女の髪だった。

柔らかな一筋の髪が掌の側面を撫でて過ぎ、彼女の香りをわずかに運んだ。触れたと言うほどでもない軽さだったのに、彼の指はかすかに縮んだ。意志では止められない動き。意識より早く、神経が示した反応だった。


次に唇が触れた。それが掌へ落ちた瞬間、ジェフリーの呼吸は半拍止まった。一秒ではなく、ほんの半拍。本人でなければ気づけないほど短く。


唇は柔らかく、ひんやりしていて、呼吸の温もりをわずかに帯びていた。そんなふうに触れられるとは一度も思わなかった、厚いまめの上へ重なった。それは七年のまめ、剣を握ったまめ、荒れた道と焚き火と数えきれない孤独な夜がつくったまめだった。そこに大切にされる価値があるなど、彼は考えたこともない。


けれど彼女はうつむき、そこへ唇を置いた。まるで、あの七年間をすべて受け入れるように。


胸の中で何かが締まった。痛みではない。あまりに満ちすぎ、胸という器に収まりきらなくなったような苦しさだった。右手を動かさず、彼女に包ませ、口づけをそこへ留めた。動けば何かが壊れてしまいそうで、身じろぎもできなかった。


彼女が顔を上げたときも、彼はまだ完全には我に返っていなかった。笑みを宿した瞳が彼を見ている。伏せた顔を上げたばかりの目尻には細かな光がきらめき、頬の赤みも残っていた。口元には、自分でも大胆だと思うことをしたあとの、少し得意げな笑み。彼女は反応を待っていた。いつも冷静な彼が、言い当てられ、不意を突かれた姿を。


ジェフリーは彼女を見つめ、二秒黙った。


それから、ゆっくりうつむいた。燭光に睫毛の影が落ちる様子まで、彼女にははっきり見えた。彼は自分の掌を、先ほど彼女の唇が触れた場所を見つめた。親指をゆっくりそこへ動かし、軽く押し当てる。力は込めず、ただ覆って、あの温もりがまだ残っているか確かめるように。


まだ、残っていた。

彼はもう一度顔を上げ、彼女を見た。


その表情を言い表すのは難しかった。いつもの落ち着きでも、先ほど言い当てられてこぼれた笑みでもない。もっと深い何か。誰かに心の一か所をそっと貫かれた者だけが浮かべる表情だった。隠れる場所を失ったようでもあり、彼女を腕の中へ抱き込みたいようでもあり、この人にどんな言葉を返せばよいのかわからないようでもあった。


「アンナ……」声は先ほどより低く、少しかすれていた。半拍止まった呼吸が、まだ完全には戻っていないように。「君は……」そこで止まる。短い沈黙の中には、言い終えられなかった言葉のすべてが詰まっていた。「そんなことをされたら、俺は……」


最後まで言わず、その半分の言葉を飲み込んだ。代わりに、空いている手をゆっくり上げ、指先を彼女の頬へそっと触れた。わずかに高くなった頬骨の辺りへ、ごく軽く。指で頬の温度を確かめ、その赤みが本物なのか、彼女がここに座っているのが本当なのか、この夜のすべてがセイラン通り三号室の窓辺で見た夢ではないのか、確かめるように。


琥珀色の目が燭光の中で燃え、まっすぐ彼女を見ていた。その眼差しの奥から何かが絶えず外へせり出そうとしている。彼は抑えていた。抑えられてはいたが、抑えていること自体は彼女にもはっきり見えた。


「君は、悪い人だな……」かすれた声で言った。だが口元には弧が抑え込まれている。負けを認めながら、最後にもう一度だけ抵抗しようとする表情だった。「わかっているのか?」


「悪い人だな」という言葉に、アンナは声を立てて笑った。隠していたことを見つけられても気にしない、心からのいたずらっぽい笑いだった。


「わかっているわ」その目が告げていた。彼女は無垢な獲物ではない。腕の立つ狩人で、その鋭さを艶やかな魅力で包んでいる。「みんな、そう言うもの」


爪を立てて傷つけることはない。ただ、目に見えない痕跡を相手の身体へ残すのだ。


「もっと悪くもなれるのよ……」彼女はさらにほんの少し身を寄せた。「これから、ゆっくりわかるわ」


口元に弧を描いた。


ジェフリーは彼女を見つめた。その笑い声が部屋に響き、揺れる燭火へ落ち、まだ彼女の頬へ触れている彼の指先へ伝わった。声を立てて笑うときの細かな振動が、頬の肌から指の腹へ届く。思いがけない電流のように、掌の骨を伝って上へ走った。


そして今、彼女はまた少し近づいた。


他人なら取るに足らないと思うほど、わずかな距離。けれどジェフリーには、彼女の呼吸が近づいたのがわかった。何の香りなのか言葉にはできないが、すでに覚えてしまった彼女の気配を帯びている。燭光の中で輝く目には、父やジーロンや、あの誰も彼もと向き合うときには一度も見せなかったものがあった。


爪をしまい、ただ優しく撫でる手だと思わせるときの表情だった。

彼にはわかった。


ジェフリーは退かなかった。彼は決して退く人間ではない。だが呼吸がひそかに深くなった。それを抑え、何も起きていないかのように平らに整えた。


頬へ触れた指先が、その曲線に沿ってそっと下へ移り、顎で止まった。軽く支える程度で、力は込めていない。拘束ではなく、彼女の顔を自分の視線の中へ留めるやり方だった。


彼はうつむき、互いの目の高さをそろえた。彼女の吐息が唇へ届くほど近い。「知っている」ほとんど空気へ直接触れさせるような低い声には、普段は深く抑えている暗い熱が、今だけ外へ姿を見せていた。「君が短剣を俺の手元へ置いた瞬間から、わかっていた」


動かず、そのまま目を合わせた。琥珀色の瞳が近い距離で燃えている。その炎は衝動ではない。じっと沈められた、より危ういものだった。赤く焼けても煙を出さない炭のように、近づかなければどれほど熱いかはわからない。「自分が狩人だと思っているんだろう」そう言う口元には、ごく浅い弧が抑え込まれていた。彼自身も完全には隠しきれない何かを帯びた曲線だった。「だが、アンナ……」


そこでわざと言葉を止め、その沈黙を彼女の前に丸二秒置いた。「俺は七年、歩き続けた」彼は言った。「君は、俺が夢に引かれて歩いてきたと思っている」


親指が彼女の顎でそっと動いた。ゆっくりした動きには、本当に大切なものへ向き合うときの彼特有の、焦りのない確信があった。「だが獲物のほうから訪ねてくる狩人など、いない」


そう言い終えると、それ以上は口にせず、近づきもしなかった。ただその距離で止まり、言葉が二人の間の空気へゆっくり落ち着くのを待った。


彼女の言葉をそのまま受け止め、そのまま返した。重すぎも軽すぎもせず、彼女が最も予想しなかった場所へ、ぴたりと落とした。


二人の背後で燭火が細く燃え、壁へ映した二つの影を引き寄せた。ほとんど一つの輪郭に重なるほど近く。言葉を返され、彼女は少し目を見開いた。だが怯むことはなく、これまで会ったときとはまるで違う、得意げな笑みを浮かべた。


「どうやら、二人の狩人が出会ったようね」彼女はわざともう少し近づいた。互いの吐息が相手の顔へ触れるほどに。そして笑った。


紫の瞳の中に、小さな炎を初めて見つけた。「知りたいわ……」彼女は深く息を吸った。「これまでの旅で、心を寄せた人はいた?」目を上げて彼を見つめた。


二人の狩人が出会った。

その言葉を聞き、口元に抑えた弧が少し深くなった。完全な笑みにはならなかったが、目尻の線が細かく動いた。彼女にはかなわない、とでもいう表情だった。たいていのことには冷静でいられる彼も、彼女の前でだけは細い隙間が開き、そこから何かがこぼれてしまう。


そして彼女はさらに近づいた。吐息が唇へ触れると、ジェフリーは顎をわずかに引いた。自分を落ち着かせるための小さな動きで、彼女には見えないほどささやかだった。だが彼自身はよくわかっていた。この距離で見る彼女の瞳は紫色だ。その色は塔の頂でも、城の南の道でも見た。けれど今度は、何かが違う。その色の最も深いところに小さな光がある。先ほど声を立てて笑ったあと、まだ完全にはしまい込まれていない、新しい光だった。


彼はそれを見た。何も言わなかった。


「これまでの旅で、心を寄せた人はいた?」

問いが落ちると、彼の目が一度だけ静かに瞬いた。問いを真剣に受け止めるときの反応だった。彼女は顔を上げて見つめている。紫色の目には、好奇心と探究心を笑みに包んで差し出す、彼女特有の光があった。知りたい。本当に知りたいのだ。だがこれほど近づいてから尋ねるその姿勢には、さらに別の意図も混じっていた。何気なく口にしただけとは思えない何かが。


ジェフリーはすぐには答えなかった。問いを数秒、空気の中へ留めた。親指は彼女の顎に当てたまま動かない。うつむき、瞳の中の小さな炎を見つめている。本気で考えているようでもあり、もう少し彼女を待たせ、その鼓動がさらに半拍速くなるのを待っているようでもあった。


やがて口を開いた。

「いた」ただ一言、あまりに平らに落ちた。彼女が反応する間もなく、彼は続けた。「ランティス川沿いの町に、薬屋を営む娘がいた」遠い出来事を語るような、飾りのない口調だった。「赤い髪で、笑い声が大きかった。一度、俺の傷を手当てして、どこへ行くのかと聞いた」


一度言葉を切った。「どこへ行くのか、自分でもわからないと答えた」


「それで?」アンナの声は、思ったより早く飛び出した。自分でも気づいたのだろう。その言葉には、抑えきれなかった焦りが少し混じっていた。


ジェフリーはその焦りを見逃さず、口元を引き締めて何かを抑えた。「その町に三日いた。四日目の朝には、また歩き出した」彼は言った。「彼女はとてもいい人だった。だが、俺の探している人ではなかった」


そこまで言うと、わざと止まった。


親指を彼女の顎でそっと動かし、顔を持ち上げ、視線を脇へ逸らせないようにした。その目を自分の目へ向けさせる。燭光の中で燃える琥珀色の瞳は深く、揺るがなかった。ずっとしまっていた答えを、今になってゆっくり端から開いて見せる者の眼差しだった。


「七年の間に」声が低くなり、空気まで重くする質感を帯びた。「たくさんの、いい人に出会った」


それ以上は言わなかった。けれど視線は彼女から離れない。沈黙が、言葉の続きを代わりに語った――君は、七年歩いた俺が、ただ一度足を止めた場所だ。


彼はその沈黙を、二人の間に残した。まだ遠ざからない彼女の吐息の中に、紫色の小さな炎の前に置き、この言葉を彼女がどう受け止めるのか見ようとした。


「たくさんの、いい人に出会った?」彼の言葉を繰り返す。胸に、今まで知らなかった酸っぱい感情が湧いた。ほんの淡いものだったが、彼女は強く押し込めた。


「じゃあ……」一度言葉を切った。「立ち止まろうかと考えさせた人は、誰もいなかったの?」睫毛を伏せた。そうしてしか彼の目から逃れられなかった。彼がわざと自分を捉え、ほかの場所を見せまいとしているのはわかっていた。


「じゃあ……」と次の言葉の間で、彼女の視線が伏せられるのをジェフリーは感じた。彼から離れ、顎へ、襟元へ、自分の手へ、彼の目以外ならどこへでも下りていく。


彼はその動きに気づいた。「たくさんの、いい人に出会った」と繰り返した声に、ごくかすかに混じり、彼女が隠しきったと思っているものにも。


親指で顎へほんの少し上向きの力を加えた。強くはないが、顔をもう一度持ち上げるための方向だった。彼女は上げなかった。目を伏せ、睫毛の後ろへその酸味を隠そうとしていた。あまりに懸命に隠すので、睫毛がかすかに震えたのまで見えた。


彼は顔を上げさせるのをやめ、力を解いた。そのまま伏せさせた。今の彼女には、その睫毛という盾が必要なのだと、ふいに理解したからだ。この距離でまだ使える、最後の一枚だった。


彼は一度黙った。「いた……」と言った。


彼女の睫毛がまた震えた。


「一度だけ」起伏のない声で続けた。天気の話ほど何気なく、遠い出来事を語るように。「北の山道で、旅を急ぐ商人に会った。前の町は静かで、住みつくにも悪くない。一緒に行かないか、と言われた」一度止まる。「町の入口までついていき、そこに立って、長いこと眺めていた」


アンナは何も言わなかった。だが呼吸のリズムがわずかに変わった。


「それから俺は、背を向けて歩き出した」彼は言った。「立ち止まりたいと思わせたものは、あの町ではなかったからだ」言い終えても、すぐには続けなかった。言葉を伏せた目の前へ、まだ消えない淡い酸味の中へ落とした。それからゆっくり頭を下げ、下から彼女の目を探した。彼女が伏せるなら、自分も伏せ、もう一度同じ高さで視線が合うところまで。


もう逃げられなかった。


その眼差しは静かだった。水底に沈んだ琥珀のように、揺れもせず、彼女の目の中へ留まっている。「立ち止まることを考えさせた人は、誰もいなかった」一語ずつ、ゆっくり、明瞭に言った。「ただ一人だけ、どうしても先へ進めなくさせた人がいる」


親指は今度、顔を上げるためではなく、睫毛の下の頬骨へそっと触れた。頬の皮膚が最も薄い場所だった。そこは手の甲より温かく、唇より熱い。「俺の過去が気になるんだな……」二人の間にしか届かない低い声だった。「隠さなくていい」


見えているのだと伝えた。彼にはずっと、見えていた。


「あなたは悪い人ね」彼女は目を閉じ、もう一度開いたときには、胸の酸味はゆっくり消えていた。「わかっているの?」彼の言葉を、一字も変えずそのまま返した。


ジェフリーは一秒、呆気に取られた。

本当に一秒だけ。それから笑った。


口元だけ動かして抑える笑みではなく、本当の笑いだった。胸から息とともに湧き上がり、滅多に人には見せない無防備さを帯びていた。彼女は彼の言葉をそのまま、あまりに軽やかに、当然のように返してきた。彼を見透かしたあと、手を叩いて「あなたも同じ」と告げる者のように。彼にはもう、隠れる場所などなかった。


彼はうつむき、眉間へ手を当てて笑いを遮ろうとしたが、やはり隠しきれなかった。


「わかっている」声にはまだ笑いの温もりがあった。前と同じく、言い訳も回り道もない、あっさりとした肯定。その三語だけで、彼女が返した言葉をそのまま受け止める。そして顔を上げ、彼女を見た。


先ほど閉じてもう一度開いた目からは、あの酸味が消えている。彼にはわかった。瞳はまたあの紫色に戻り、小さな炎を宿していた。彼女が笑うと、炎はさらに明るくなる。その光に、彼の胸の中で何かが静かに、もう一度ぶつかった。


頬骨へ触れた親指が、曲線に沿ってゆっくり上へ移り、目尻の下で止まった。皮膚には先ほどの温もりが残っている。指の腹を当て、その熱を感じた。


「二人の悪い人が」先ほどよりずっと力の抜けた声だった。この夜がここまで進み、彼の中で最後まで張っていたものまで、彼女の笑い声とともに落ちたように。「ここにいる」


「出会った」とは言わなかった。だが意味は彼女にもわかった。


彼はそのまま彼女を見つめた。燭光が横顔を温かく照らし、どこか困ったような笑みがまだ口元にあり、その目が彼の前では何ひとつ隠しきれないのを見ていた。彼女は自分を狩人だと思っている。確かに、そうなのだろう。だが彼女は気づいていないのかもしれない。押し込めても彼に見つかったあの酸味も、わざと近づいたあと離れるのを忘れた距離も、彼の手を包んで顔を伏せた姿も。彼女が彼に見せた、そのすべてを。


それこそが、彼女が本当に差し出したものだった。


彼の手はゆっくり頬を離れ、彼女の手の甲へ戻って覆った。掌の温もりが肌へ触れる。何も言わず、ただそこに座り、鍵をかけた扉の向こう、燭火の燃える部屋に、静かに二人を包ませた。


それだけで十分だった。

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